論文概要
フリーアクセスを原則とするわが国の医療においては,拠点病院において外来患者の待ち時間と医師の外来業務負担が増加している.医療の現場では外来患者の待ち時間対策が重要な課題であり,これに対し「携帯情報端末を用いた外来患者案内システム(POGS)」を開発した.POGSは患者自身の携帯情報端末に時間・空間の制約なく外来案内情報を提供する.病院外にあらかじめ設定されたエリア内で患者自身の携帯情報端末からのオンライン再来受付が可能であり,さらに,再来受付後の患者の携帯情報端末には,診察進捗通知・診察呼出・支払案内等がプッシュ配信され,患者は随時,受診票・診察進捗等を確認することも可能である.
東京大学医学部附属病院の外来診療において協力患者10名(56.3±9.2歳)を対象にPOGSの実証試験を実施した.アンケート調査では,患者の待ち時間ストレスが高率(90%)に軽減されていることが確認された.診察呼出から診察室入室までの時間(呼出入室時間)についてPOGS利用群(n=20)では従来システム利用群(n=319)と比較して短縮される傾向(47±20秒vs 112±310秒, p=0.416, Wilcoxon rank sum test)があった.
POGSは患者ストレス軽減効果のみならず,医師待ち時間および外来患者総待ち時間短縮効果を持つことが示唆される.
所感
スマートフォンや携帯電話を利用することにより、待ち時間に対してかなりの有効性があることが分かった。一方で、表示される文字が小さく読みづらかったり、スマートフォンそのものが苦手な患者もいるなどの課題もある。従来の方式の良かった点を考えながらシステムを開発することも大切なのだと感じた。
参考文献
- 大前 浩司, 小林 春香, 内村 祐之, 脇 嘉代, 新 秀直, 田中 勝弥, 藤田 英雄, 大江 和彦 :携帯情報端末を用いた外来患者システムの開発と実証.医療情報学, 34(2), 55-64, 2014.
【コメント】
論文概要は、論文の要約をそのまま写し取るのではなく、自分がこの論文を読んで理解できた範囲で良いので、自分の言葉で書いてください。Wilcoxon rank sum test(ウィルコクソンの符号順位検定)について調べてみました。これは、2群の代表値(中央値)に違いがあるかを検定するノンパラメトリック手法です(よく耳にするマン・ホイットニーのU検定と同じものだということです)。2群の代表値(平均値)の比較と言えばt-検定を思い浮かべますが、t-検定はデータに正規分布を仮定するパラメトリック検定手法です。
考え方としては、もし2群が同じ母集団からの異なるサンプルであれば、それらを一緒にして順番に並べ替えたら、いずれかの群が大きい方や小さい方に偏ることなく、ほどよく混ざり合うだろうと考え、それを表すような統計量を定義します。実際のデータをあてはめて統計量を計算し、それがどのくらい起こりやすいかを表す確率(p値)をもとめ、それがあまりに小さいならば(有意水準よりも小さければ)、そんなことはありえないだろうと考えて帰無仮説(2群は同じ母集団からの異なるサンプルだという前提)を棄却するというものです。
この論文では、p=0.416となっていますから、有意水準5%で有意でないという結論になります。つまり、この程度の違いであればほぼ1/2の確率で起こるということです。
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